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●フローティングピンの固着

【04.05.15】


'88R750Jのローターのフローティングピン

 リアブレーキキャリパのフローティングマウントと同様、80年代の半ばからバイクの世界では徐々に一般的になってきたディスクローターのフローティングマウント。リアキャリパのフローティングマウントはその後、時代の流れと共にリジッドマウントへと戻ってゆきましたが、ローターのフローティングマウントは廃れる事なく現在に至っています。

 ローターをフローティングさせる事のメリットには色々ありますが、制動時の熱によるディスクの歪みを抑えられる事、インナーローター部に軽量な素材を使う事で大幅な軽量化をはかれる事などが挙げられます。85年の初代GSX-R750の場合はインナー/アウターこそ別体でしたが、両者はいわゆるリベットで結合されており、フローティングのメリットを最大限に活かした構造にはなっておりませんでした。(軽量化にはなった) 運輸省(当時)の認可基準の絡みもあったのでしょうが、86年の乾クラR750R以降から本格的なフローティング構造(ウェーブワッシャは噛ませてありますが)のディスクがGSX-Rには採用されるようになり、同時にスズキのスポーツバイクにも次々に採用されてゆきました。


 上は88R750Jのフローティングピン、下は同じ駐輪場に停まっているXJR400のフローティングピンです。

 メーカーが違えば各種クリアランスの設計もずいぶんと違う…のではなく、実はXJR400のローターは、「なんちゃってフローティング」と呼ぶ事が出来るような構造になっています。


 一見すると両者には大きな違いはありませんが、実はXJRのディスクは、初代GSX-R750と同じような、フローティング風ディスクです。但し、リベット止めのようにインナー/アウターを重ねて締結しているわけではありませんので、上下方向へのクリアランスは若干設けられていますから、熱によるローターの膨張/歪みを吸収する余裕はあります。

 まぁ、装着者が400ccのオートバイという事で、それほど大げさなクリアランスは必要ないのかも知れませんし、インナー/アウターを別体とする事で軽量化はかなり達成出来ますので、「意味が無い」とまでは言いませんが…

 GSX-Rのフローティングピンは左図のような構造になっており、前後、上下、軸方向にかなりの可動範囲を設けているほぼ完全なフローティング構造になっています。このままではメカノイズがかなり発生してしまいますので、ウェーブワッシャで軸方向への動きをある程度規制/位置決めしています。

 試しにアウターローターを握って揺すってみると、GSX-Rのローターはカチャカチャと音を立てて動きますが、XJRのローターは微動だにしません。(笑)

 GSX-Rシリーズだからとも言えるかも知れませんが、スズキってメーカーは「〜風」って機構を採用するくらいならいっそ本物を搭載してしまえ!ってな社風のメーカーなので、そういう意味では本物指向だと私は常々思っていたりします。 (その割りにはGSX400/250Sカタナの空冷「風」エンジンフィンや、Wolf50のツインスパー「風」フレームカバーなんて物も採用したりするので混乱しちゃいますが…)

 なにもこんなメカニズム講座を開く事はこのコンテンツの趣旨ではありませんので(笑)、いよいよメンテナンスのお話です。

 今月の20日に自分のRでは初めて鈴鹿サーキットのフルコースを走る事になり、それに向けてこのところ色々とメンテナンスをしているのですが、ブレーキ周りのメンテナンスをしている際に、今回のフローティングピンの固着に気がつきました。

 いつも通りにフロントを浮かし、ブレーキの引きずりをチェックしていたのですが、ちゃんと2回転弱は軽く回るので一安心し、パッドの残量確認の為にパッドピンを抜いてピストン周りを目視すると、やたらとキャリパーのセンターがズレています。ズレている方向はホイールが右側に寄っている方向ですので、シムを噛ましてキャリパー位置を調整するわけにもいきません。もともとこのRは右側キャリパーのセンターがきちんと出ていないのですが、それにしたってそのズレがミリ単位で一気に増大するのは解せません。考えられる原因はスピードメーターのデジタル化の際に交換したGSF1200用の左側フロントカラーです。きちんと採寸したはずなんですが、メーターギアよりGSFのカラーの方が長ければ、今回のズレ量の増大も納得がいきますので、面倒くさい作業ですがフロントアクスルを抜き、カラーを取り外してノギスで再計測。結果は34mmの奥行きで、GSX-R純正のメーターギアの奥行きと同値です。うむむ…(困)

 あれこれ悩んでも仕方が無いので、自転車用メーターのセンサーを外し、純正メーターギアを仮組みしてキャリパを再確認すると相変わらずディスクが右側に結構ズレています。(泣 まぁこれでアクスル周りが原因では無い事は分かりましたので、フォークの平行を取る作業を実行。結果は… 相変わらずズレています。(号泣)

 何故だ? 一体何が原因なんだ!?

 まぁ、ブレーキの引きずりは殆どありませんので、「気づかなかった」事にしてしまおうと何度も思いましたが(笑)、やっぱ場所がブレーキ周りなので気持ちは良くありません。で、念の為に…っとフロントのディスクローターをプラハンで優しく叩いてみる(←何の念の押しているのかは聞かないで!(笑))と、パラパラ…っと何やら砂粒が落ちてきます。

 !!!

 そういやこのローターはフローティングだったなぁっと今更ながらに気づき、ピンを指で回そうとすると… ガッチガチに固着していて回る気配すらありません。(アウターローター自体はきちんと可動します) 私の記憶が確かならこのRのフローティングピンはプライヤで摘んだりしなくても指の力だけで回りますので、これは明らかに異常です。

 再度フロントを持ち上げ、片側9箇所、計18箇所のフローティングピンにCRCを順番に吹き付け、プライヤで摘んで軽く回してゆきますと、最初はゴリゴリ/ギシギシした感触だったのがクリクリに変わってゆきます。この辺、ドライブチェーンへの給脂時のローラーの動きの変化にかなり似ています。(笑) 一旦スムーズに回るとあとは指の力だけで軽く回るようになりました。

 CRCとはいえブレーキ周りに油脂類を使ったわけですので、ウェスにパーツクリーナを吹き付け、アウターローターやフローティングピン周りを入念に脱脂。で、気がつくといつの間にかディスクのセンターとキャリパのセンターは許容範囲あたりまで改善しておりました。(驚)


左側のキャリパー


右側のキャリパー

 フローティングピンへの給脂の前の写真は残念ながら撮影するのを忘れてしまいました。ピストンの出方を見るとホイールセンターが右側に0.5mmほどズレてるようにも見えますが、まぁ、この程度なら許容範囲のような気がします。

 ちなみにこのパッドは交換後15000km以上経過していますがまだディスクの厚さと同程度(4.5mm)の残量があります。

 作業に伴うキャリパの脱着はしてないので、どうやらピンの固着が原因でアウターローターが正規の位置に戻っていなかった事がズレの原因だったといえそうです。雨でも走るので、フローティングピンとインナー/アウターローターの間に細かい砂粒などの異物が噛みこんでしまっていたのでしょうね。試しに再度ホイールを回転させてみると、さっきまで2回転だった空転が3回転弱まで回るようになり再度吃驚です、ハイ。

 メーターギアをGSF用カラーに組み替え、メーターセンサーも再設置して試走に出かけると、これまた絶妙なタッチです。今回はエア抜き作業なんてしていないのに無効ストロークが更に減ったっとでもいえばイイのかな。レバーの位置を1段階手前に近づけても十分コントロール出来るような感じがします。

 XJR400のディスクのような、フローティング「風」なローターの場合は、アウターが自由に動かない事が前提に、GSX-Rのようなフローティングディスクの場合は、アウターがある程度自由に動く事が前提になっていると思いますので、前者の場合は手で揺すってガタが出始めればNG、後者の場合は動かなくなってくればNGと考えても良さそうですね。

 大した手間なく効果はかなりありますので、純正フローティングピンが指でクルクル回らないRオーナーさんは一度この辺りに手を入れてみるとイイかも知れません。但し、再度の警告となりますが、作業後の脱脂は確実に行って下さいね

 ちなみに、Rのフローティングディスクにはウェーブワッシャが噛まされていますので、走行中にピンが自由自在に回るとは思えません。これは言い換えれば制動時に荷重を受け止めているピンの位置はほぼ固定されていると捉える事も出来ます。純正のピンはステンレスのカシメですので強度的にそれほど心配なさそうですが、ブレーキング時の荷重を最初に受け止めているのはこの18本のピンですので、社外品のアルミフローティングピンに換装している場合は、まめにピンを回転させて当たる位置を変える事、定期的にEリングを外してピン磨耗状況を確認する事をお勧めします。








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