実はライテク関連に関する私見を、このHome Pageのかなり目立たない部分やBBSなどにちまちまと書いていたのですが、少々思うところがあり、改めてこの項目をおこしました。GSX-Rに特化した書籍はこちらを御参照下さい。
様々な雑誌やWebなどで見られる「ライテク解説」なのですが、どれもこれも似たような内容であるようでいて、その実、ライターによってまったく同じアクション/挙動の表現がまちまちであり混乱の元になっているような気がします。まぁ、ライディングそのものがライダー自身の感覚による部分が大きいだけに、言葉で著すのは困難であることは容易に想像がつきますし、ある意味仕方がないのかも知れません。が、そういった「ライテク解説」を読もうという気になる時は、自分のライディングになんらかの壁を感じている場合が殆どであり、そういった際に、読み方によって180度違った内容ともとれる記述にぶつかるとかなり混乱する事が多いと思います。
また、走行ペースや、乗車暦によっても、記述内容の捉え方に差が出てしまう事も多く、問題を余計にややこしくしてしまいます。そういった事もあり、私自身はライテク関連のコンテンツを書くつもりが全くありません。
一例を挙げてみます。良くある左コーナーで、クリアするためには最初の進行方向に対して最終的に45度、向きを変える必要があります。
この場合、大きく分けると以下の3例のようなインプレッションを感じるケースが殆ど(もちろん、それぞれは極端な例ですので、その中間的な感じは無限にあります)です。が、いずれの例も、「最終的に左に45度向きが変わる」という現象自体は全く同じである事に注意して下さい。この「左に45度向きが変わる」最中に、どのような意識をライダーが持っているかで、同一現象でありながらインプレはまるで違って来ます。が、殆どの場合、その「物理的現象としてのバイクの挙動の差異」は外から見ていても(つまり乗っている本人以外は)見分ける事が出来ません。(勿論、必死で観察すればある程度分かります。低速だと結構分かりやすいかもね。)
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かなり単純な図形ですが、上を前輪、下を後輪と考えて下さい。左へコーナーリングする時のイメージ図です。 速度域によっても多少変わって来ますが、ライダーは、「前輪が大回りする感じで内側に倒れこんでくる」と感じています。ちょうど、後輪をコンパスの中心にして前輪が円を描く感覚です。 この場合、ライダーは前輪の存在、もしくは、自分の体が前方に伸びた感覚になります。 減速しながらの初期旋回に近いイメージです。 |
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これも同じく左コーナリング。上との違いは、同じ旋回でも、前後輪がバランス良く向きを変えている状態ですね。 強いていえば、コーナーを中心に前後輪が円を描く、あるいは、自分を中心にバイク全体が回転する感じですが、実際はそういった回転軸を全く意識することなく、自分の足で歩いたり走ったりするのと違わない感じです。 極論すれば、「バイクの存在を感じない」と言う事ができるかも知れません。 |
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こちらも左コーナリングですが、ライダーは、「後輪が外側に流れてゆく」「後輪で向きが変わる」感じを強く持っています。こちらは前輪をコンパスの中心にして、後輪が円を描く感覚ですね。 この場合は、後輪の存在を自分の後側に感じると思います。自分の体が後ろに伸びた感じですね。 コーナリングの後半、アクセルを開けていく時の感覚に近いかな。 |
これらの図は走っているバイクを上から眺めた場合のイメージですが、もっと簡単に実感しようとすれば、床に立って、上体をゆっくりと左側に回転させます。その時、
どちらを強く意識するでしょうか?また、意識の持ちかた次第で、全く同じ現象(ここでは体を左回転させる)でも印象がまるで違う事に容易に気付くと思います。
上図のような感覚の違いが、「前乗り」であったり、「後ろ乗り」であったり、リアステアであったりするのですが、実は基本はまん中の「ニュートラルな状態」であって、速度が低くなれば前が倒れる感覚が増し、速度が乗れば後ろが外にゆく感覚が増すのが自然な状態です。また、そう感じられるように車体をセットアップするのがいわゆるセッティングの目的ですし、そう感じられるようにバイクを操るのがライテクだと私は思っています。決して速く走る事だけがライテクではないのです。また、こうした感覚は、前述のように速度域(より正確には、コーナーの曲がり率や、アクセルを開けるタイミング、減速/パーシャル区間の長さ)によっても変化するものですから、国際サーキットでの体験だけを基礎としたライテク特集の記述を峠にそのまま持ち込む事はナンセンスですし、その逆もまた同じです。
少々脱線しますが、90年頃(要はラジアルタイヤの普及)のバイクから、だんだんと「リアが外側に周りこむ感覚」が発生する速度域は下に降りて来ました。私の今のバイクは、360度以上のパイロン回転以外、「フロントが周りこむ」感覚が起こらないようなセットアップになってます。また、傾向として、ネイキッドタイプは前輪が周りこむ感覚が強く、スーパースポーツ系はリアが周りこむ傾向が強いようです。これらはディメンジョンによって設計段階からある程度決定付けられたそのバイクのもつ「素性」でもありますので、素性と異なった乗り味を求めてしまうライディングや改造は危険です。基本はあくまで「ニュートラル」にあることをお忘れなく。
上記の記述をさらに詳しく考察する場合はここをクリックして下さい。
まぁ、そんな感じですので、私自身はあまり雑誌のライテク特集を熟読する事はありません。とはいえ、数年前までは熱心にその手の特集を貪りましたし、また、関連書籍もかなり買いました。そういった経験の中で、私自身がこんなところまで目を通して下さる皆さまに自信を持ってお勧めするライテク関連書籍をまとめておきたいと思います。
但し、これら書籍間でも、前述の「同じ現象なのに書き手によって表現がちがう」ことはあります。私見では、街乗りなどを含めた「ライディングの際の心構え」的な部分は辻司氏、「スポーツライディング時のテクニック、マシンコントロール、また、その理論的裏付け」は和歌山利宏氏の著作に全幅の信頼を置いています。 が、それらの記述を「あなた自身の物にする」には、あなたの努力が欠かせません。 読んだだけで上手く速くなれる程、バイクは単純な乗り物ではありませんので。
バイク初心者、免許取得から間がない人、一般的なライダー向けの本
中級者向けの本
上級者、スポーツライディング愛好者向けの本
バイクの構造、進化を理解したい人向けの本
ここでご紹介した本はいずれも名著だと私は思っていますが、その殆どが80年代後半から90年代初めに書かれた本であり、それ以降、こういったすばらしい本が出てこない背景には、バイクにおける技術的なブレイクスルーは90年以降起きていないということの裏返しなのかも知れません。90年代はきっと熟成の時代だったんでしょうね。まぁ、二輪で走るというバイクの基本性質は今も昔も変わりませんので、基本的なライテクがある程度不変であるのも当然だとは思いますけども。
私自身はこれら書籍をだいたい93年ぐらいに初めて読んだのですが、今から思えば当時の私には和歌山さんの「〜科学、工学」シリーズは時期尚早でした。理解出来なかったことにすら気付かず、「分かった気になってしまった」のだと今では笑って言えますが、随分遠回りした気もします。が、今の私のライディングテクニックの根幹はこのシリーズが元になっていますし、迷った時に戻る場所もここです。
応用問題が、さも本質であるかのような特集や記述が多い中、「基本に戻る事」は本当に大事だと思います。そういった書籍にあなたも巡り合えるといいのですが。
【03.05.21】追記
ひさしぶりにライテク本というか、和歌山さんの著作を買いました。
2003年4月の新刊で、定価1600円でした。内容はこれまでの氏のライテク関連本の集大成とでもいうものなのですが、前半をタイヤの構造を中心とした解説、後半をそのタイヤが発生するグリップをいかに使うかに焦点を当てて解説されています。前述の氏の著作を持っている方はあえて買う必要はないと思いますが、登場するバイクやタイヤの写真が最新機種ですので(笑)、これから初めて読む人にはこちらがお勧めかもしれません。繰り返しになりますが、90年代初頭に現在にまで繋がるオートバイの技術的革新は終わっていたのだなぁと改めて感じます。
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