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●油圧レシオに関する考察

 私の1990年式R750Lのフロントブレーキシステムは以下のような構成になっています。

 この構成は1989年式R750RK、そして1991年式のR750Mと同じなのですが、キャリパー及びローターを共通部品とする1989年式R1100K〜1992年式R1100Nは14mmサイズのマスターシリンダを採用しています。また、1988年式R750J及び限定モデルではないR750Kも14mmサイズのマスターシリンダを採用してました。

 さらに遡って、いわゆる油冷前期のモデルに目を向けると、1985年式R750F及び1986年式R750Gは

 となっており、1986年式の限定R750R及び1987年式R750Hはマスター/キャリパーをそのままとしながら、ブレーキローターのサイズが310mmに変更されております。

 これらの諸変更は様々な目的があって行われているのですが、第一目的には「ブレーキの効きを良くしたい」とうことが挙げられます。特に油冷前期の300mm→310mmへのローター径の拡大はまさにそれが目的です。私と同じ位の年代の方なら「レコードプレーヤー」の付いたコンポを持っていた事があると思うのですが、ターンテーブルを回して、それを指で止めようとした時、ターンテーブルの中央部分を押すよりも、外周部分を押した方が軽い力で止められる事を実感として体験された方も多いのではないでしょうか?(笑)マスター及びキャリパーが同一のままでもローター径を大きくすれば、それだけ制動力が上がる(テコの原理です)という理屈です。

 対して、油冷後期R750のマスター径の変遷は、制動力向上という側面よりも、いわゆる『タッチ』を追求した結果といえる気がします。

 上図はブレーキレバーのサンプル写真ですが、矢印の位置でブレーキレバーを操作する場合、レバー比はおおよそ27mm:120mm、約4.4程度になりますので、この位置を5kgの力で握ると結果的に約22kgの力でマスターシリンダを押す事になります。直径14mmの円の面積は7×7×3.14=153.86mm2、対して5/8inchの円の面積は7.935×7.935×3.14=197.90mm2ですので、レバー操作によって入力される力はどちらも同じ22kgですが、それぞれの面圧は14mmの場合が0.144kg/mm2、5/8inchの場合が、0.111kg/mm2となります。Nissinの4Pキャリパーの有効ピストン面積は(706.5mm2+907.5mm2)×2(ダスルディスクだから)=3228mm2となり、パスカルの原理により液体の中の圧力は全ての方向に等しく伝わりますから、最終的に14mmの場合は464.8kg、5/8inchの場合は358.8kgの力でディスクを挟みつける事になります。

 計算が面倒臭いので、通常はマスター面積と有効ピストン面積の比を「油圧レシオ」という係数で表し、Nissinの4Pやブレンボの場合、マスター径14mmの場合は20.98、5/8inchでは16.31となります。この油圧レシオはピストンを押した力が最終的に何倍になるかと同じ意味です。

 R750の油圧レシオの変遷を見ていくと、油冷前期の32mm+32mmのキャリパーの場合、有効ピストン面積は(803.8mm2 +803.8mm2)×2=3215mm2ですので、純正の5/8inchで油圧レシオは16.24となります。これが1988年のJ型で一旦20.98と大きくなり、90年以降は16.31と油冷前期並みに戻っています。計算式でも分かりますが、同じ力でレバーを握った場合、油圧レシオが大きい(マスター径が小さい)ほど、ディスクを挟む力が強い=良く効くという関係になる事が分かります。同じ310mmのディスクを使っていながら、1988年のJ型で油圧レシオが大きくなっているのは、それだけの圧力に耐えられる(よく効かせられる)までにキャリパの剛性が上がったと考えるのが自然です。ではJ型で大きくなった油圧レシオが同じキャリパを使っているにもかかわらず90年型R750Lで再度レシオが小さくなる理由を考える場合、いわゆる「タッチ」を考慮したと考えるのが自然な気がします。(勿論、時代進化に伴うパッド材の性能向上等も考えられますが)

 再度パスカルの原理を思い出すと、液体の圧力はあらゆる方向に同じだけ伝わります。一般に、液体はどれだけ圧力を受けても体積は変化しませんから、ブレーキオイルの体積変化に圧力が喰われる事がありません。が、その圧力を伝えるキャリパーやブレーキホースは若干ではありますが、圧力により変型/膨張してしまい、ここで圧力損失(液損)が生じます。これがタッチを悪く感じさせてしまう第一の原因なのですが、この傾向はピストン面圧(すなわち、液圧)が上がりやすい小径マスターの方が顕著です。さらに、ブレーキが効くということは、キャリパ側ピストンが動く、すなわち、液体がその分だけ移動する必要があります。マスター部分は円筒形ですので、同じ量の液体を押し出そうとすると14mmのピストンと5/8inchのピストンとでは、面積比分(1.286)14mm径の方が沢山ストロークさせなければなりません。すなわち、レバーストローク量が増えるのです。約30%増しですので、両者を握り比べるとかなり印象が違う事は数字の上でも容易に想像が出来ます。

 いくらグローブを付けて操作するとはいえ、指先は人の身体の中で最も敏感な部分の一つです。ブレーキを効かせる為にレバーを操作した時、実際の減速と同じぐらい、いや、それ以上に「握り心地」や「レバーからのフィードバック」、「減速感」といったものも重要な要素なのでしょうね。最新のGSX-Rシリーズを含むスズキのスーパースポーツのフロントブレーキ油圧レシオは4/6P問わず概ね16前後で設計されているようですし、言い換えれば、16前後の油圧レシオが今時のスーパースポーツに於いては自然なタッチだと認識されているということなのかもしれません。(より正確な比較をするにはブレーキレバーのレバー比等も考慮したトータルなレシオを考える必要がありますが、現実問題として、どの位置でレバーを操作するかが人によって千差万別である為、純粋に機械的な計算だけで求められる油圧レシオの方が比較は楽だと思います。但し、最近流行りのいわゆるラジアルポンプマスターの場合は、ブレーキレバーを含めたレシオでしか比較できませんね)

 また、1989年型〜油冷最終までR1100が14mmマスターを採用していた背景には、その重量と速度域から、タッチ云々よりも絶対的な制動力を優先させた結果であると考える事も出来そうです。

 まとめますと、同じキャリパーを使い、同じブレーキレバーで、同じ位置を握った時、

 同じ力でレバーを握った場合、

 同じだけ量だけレバーをストロークさせた場合、

 制動力が同じ場合、

って関係になります。私自身の場合でいえば、「どれだけの力でブレーキレバーを握ったか」よりも、「どれだけブレーキレバーを動かしたか」が一番タッチに影響している気がします。








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